思い出の忘帰洞~ 父との深夜の戦い
家族旅行での一番の思い出は母親、父親と最後に一緒に行った和歌山のホテル忘帰洞温泉旅行です。
というのも父親はもう亡くなっているので旅行には一緒に行けない為です。
近畿圏ですが、和歌山のホテル浦島にある忘帰洞に行った事はなぜか頭から離れないです。
この和歌山の忘帰洞は硫黄の臭いが結構強く、本当に温泉が涌き出ているのだと思わせてくれます。
そして忘帰洞から眺める海は最高のロケーションで、心身共にリラックスできる温泉です。
ところでなぜ『忘帰洞』なのか?
時は大正時代。
紀州徳川家の頼倫(よりみち)公が訪れて、“帰るのを忘れさせるほど心地よい”と語ったことにちなんだものからきています。
僕がなぜこの旅行に対して印象に残っているのか?
理由としては家族で過ごす最後の旅行だったというのもありますが、父親がテレビ横に備え付けられたボックスにお金を入れて視聴するアダルトチャンネルを今か今かと深夜に見ようとしていて僕は楽しみにしていたからです。
父の右手にはしっかりと100円玉が何枚か握りしめられていて、これは長期戦になるなと覚悟しました。
僕は眠気でまどろみの底、早くお金を投入してくれと心の中で叫んでいました。
しかしなかなか家族が寝ない為か、父は通常の深夜番組をみて家族全員が寝るのを様子を見ていました。
僕は寝たふりをして半目を開け、父のレーダーにかからないよう監視を続けていました。
しかし、何分か経った後父の様子がおかしい。
眠気に襲われてゆらゆらと揺れだしたのだ。
こんな機会めったにないのに何を寝ているのだ!
早く右手のお金を入れろ!
僕は怒りで目が覚めてしまった。
父よ、頑張ってくれ。
刻々と父の体が布団に沈んでいくのを僕はただ見ているしかなかった。
僕は失恋にも似た失望感になり、その日は眠れなかった。
ただ、僕は今でもあの時後ろから見ていた父親の大きい背中を時々思い出しながら眠りについている。